白山比咩神社のコラム「神道講話407号」を掲載しています。

神道講話

神道講話407号「新帝陛下と白山」

◆ はじめに

天皇陛下は本年5月に御即位され、元号も「平成」から「令和」と改められました。
陛下が皇太子殿下になられる前、浩宮徳仁親王殿下の頃、今から約40年程前の昭和55年8月21日に白山本宮・加賀一ノ宮白山比咩神社にご参拝されました。
浩宮殿下は学習院大学3年生で、特に山岳信仰にご関心が深いことから、ご参拝の後宝物館にて白山下山仏など白山信仰の遺物を拝観になり、また中世文書である「白山記」(重文)など興味深くご覧になり、ご説明役の東四柳史明氏(現 金沢学院大学名誉教授)の解説に耳を傾けられました。
そして、この日は白山麓桑島の「ホテル八鵬」にてご宿泊になり、日本の三名山「富士山・立山・白山」のお話や、白山は分水嶺で福井県の九頭竜川、石川県の手取川、岐阜県の長良川、富山県の庄川が白山を源流としていることや、高山植物でハクサンの名を冠するものが数多いことなど、また白山麓の民俗学や信仰のお話を郷土史家小倉学先生にご進講頂きました。
浩宮殿下のご登拝については、昭和63年発刊の白山観光協会「四十年のあゆみ」に当時の宮司太田辰巳氏、登拝案内役の北村政次氏(当時権宮司)の記事が掲載されていますので、抜粋してご紹介します。

黒ボコ岩に登られる浩宮さま

◆ T 浩宮さまと白山(太田辰巳)

浩宮さまは、非常に山がお好きで各地の山にお登りになっておられます。 有名な山の作家、深田久弥さんの「日本百名山」を全部登りたいとおっしゃっておられました。
「白山」は、日本三名山の一つであることから、ご登拝も浩宮殿下がご自身でご希望されたとお聞きしております。
浩宮殿下のご登拝については、一般登山者と同じように扱ってほしいとの事で、お食事も室堂の食堂、ご宿泊も室堂でとのご希望でしたが、神社は前年の秋、白山比咩神社の第2期御造営奉賛会の記念事業として、奥宮参籠殿が出来ていまして、浩宮様に使い初めをしていただけて本当によかったと思っています。
昭和55年11月1日、明治神宮御鎮座六十年祭のご献詠歌ですが、「白山」をおよみになっていらっしゃるのです。

「ももとせのむかし みかどのみましけむ しらやまにして われのぼりゆく」

浩宮さまは「百年前に明治天皇さまが、ご覧になったであろう『白山』に、私は今登っているのだ」という意味のことを詠まれたのです。誠に素晴らしいお歌であり、明治神宮の高澤信一郎宮司さんに謹書して頂いた色紙は「社宝」として保管されております。(太田)

◆ II 浩宮さまのご案内役として(北村政次)

僭越ながら先達を務めさせて頂きました。「別当出合」から砂防新道を登られました。何分にも8月22日ということで、高山植物も既に盛りがすぎており、せめて天気であれば良かったのですが、残念乍ら2日とも雨でした。15分程ごとに休憩をとり、ご説明もしたのですが、大変お元気に登られ、色々とご質問もありました。
室堂」にご到着の後、明日の天気はあまり期待できないからということで、殿下の御意向によりご休憩の後、頂上に登られました。濃霧で何も見えませんので、手で方向を示すほかなく、方位盤で御説明申し上げました。翌日も雨で、トンビ岩・南竜ヶ馬場経由の下山予定を変更、再び砂防新道を下りて頂きました。
ご自分のお荷物は、ご自分で背負われました。万一の用意にとボッカを2人準備しましたが、最後までご自分でお持ちになられたのには感心しました。登山中、すれちがう人々に対しても笑顔をたやさず「ごくろうさま」と挨拶をされるのには、特に感銘を受けた次第です。将来の天皇さまになられるお方の素晴らしさに打たれました。
食事は室堂食堂のカレーライスを召し上がって頂きました。お替わりをされ、厨房員は、感激し自慢の種にしてます「信仰の山ですね」とのお言葉も賜りました。(北村)

白山奥宮にて北村氏よりご説明を受ける浩宮さま

◆ むすび

殿下は、このような高所に立派な宿泊施設があり、しかも豊富に水があるのに驚かれた御様子で「白山のお水の信仰ももっともですね。そして石川県の皆さんを始め福井県・岐阜県・富山県の多くの方々には直接、間接に大変白山の恩恵をうけておられるのですね」とのお言葉を頂戴致し、感激したと時のご案内役北村政次氏は回顧録で申しておりました。
日本の皇室が、国民に対する伝統的な信頼の精神を以て接するお姿を拝し、日本国と共に皇室の弥益々の御隆昌を、この白山紀行を通じて深く確信するものであります。
晴れれば晴れたように、花は咲き、虫達は飛び交い、鳥は囀る。雨が降れば降ったで、その滴は、植物であれ、動物であれ、生きとし活ける全てのものに命を与え、大地を潤し野を流れて海へと注ぐ。風は香りを運び、カヤクグリ・イワヒバリ・ヤマネ・オコジョが悦ぶ。 この美しい大自然を浩宮さまも登拝し、身を以て感じられたであろう霊峰白山に、今年は私達もこぞって登拝し大自然を感得しましょう。

木場潟(小松市)からの白山遠望