白山比咩神社のコラム「神道講話408号」を掲載しています。

神道講話

神道講話408号「水にかける思い」

◆ はじめに

今年のお正月は降雪が少なく、除雪もほとんどしない状態で参拝の方々をお迎えすることができました。その分、春の白山は、雪解けも早く5月1日の春山開きにあわせ、4月下旬に入山の室堂員の話では例年6〜7メートルの積雪も3〜4メートルと少なく夏山シーズン(7月1日〜8月31日)の水不足が心配されましたが、白山のお山は今のところ大丈夫の様です。
全国的に見ると線状降雨帯が各地に大雨をもたらしたかと思うと、東日本や関東では、6月・7月は低温、日照不足で農作物の被害も聞かれました。
私達をはじめ動物・植物全てのものは、お水によって生かされて生きているのであり、恵みの水でもありますが、豪雨など、恐怖の水でもあります。

今年の春山風景

◆ 世界の水環境

新帝陛下は、国連の「水と衛生に関する諮問委員会」の名誉総裁をおつとめになられました時のご講演で水問題の深刻さを訴え、日本国内よりむしろ海外での取組が知られております。
それは、ネパールで見た水くみにあり、世界では多くの女性が水を得るために家事労働から解放されず、学校に行くこともできずに地位向上を阻まれていると言います。
そして、問題はきれいな水から下水やトイレの衛生面に広がり、さらには津波など水災害に対する備えへとつながっていきます。水を通して人々の暮らしを考えると、世界の水問題の深刻さと水の豊かな日本との違いに気づきます。

◆ 日本の過去の水環境

およそ50年程前は、日本も水に苦労してきました。河川は生活用水で汚され、都会では常にドブの臭気が漂い、その為に海まで汚され、ゴミ捨て場と化していました。
しかしながら、水環境問題に取り組んだ人々によって浄化槽の設置や下水道の普及により汚水のたれ流しはなくなり、都会の河川も魚が泳ぎ屋形船や、水上バスも運行されるなど、すばらしい発展をとげました。
飲料水に至っては、浄水場が設けられ、不純物の沈澱層や浄化プール・殺菌処理が行われ、日本中どこでも水道水が、生水で飲料水として使用できます。

◆ 白山の水

白山室堂での水は、雪解けの水が地下に浸透し、伏流水として、流れ出る沢水を一度貯水槽にたくわえ、塩素消毒をほどこし、飲用は更に煮沸して使用しています。
生活排水は浄化槽にて浄化の後、自然排水を行っております。
分水嶺である白山から流れ出る河川は、日本海に流れる石川県の手取川、福井県の九頭竜川、富山県の庄川、そして太平洋にそそぐ岐阜県の長良川があり、それぞれ加賀平野・越前平野・砺波平野・濃尾平野が形成され、多くの方々が恩恵を受け、感謝の心を込めて、古来より霊峰としてあがめ奉られてきました。

今上陛下御製

◆ むすび

陛下は平成15年の世界水フォーラムで、「水は生きとし生けるものにとって欠くことのできないものです。古代の四大文明が大河沿いに発祥したことが示すように、水は人類に食糧と輸送手段などを提供してきました。その水が今、正に危機的な状況にあります。世界各地での水不足、水質汚染、洪水などによる被害が拡大してきており、世界の人口の急激な増加により一層深刻さを増すものと予測されます」そして、「今後先進国・開発途上国を問わず、国際社会が一体となって真剣に取り組んでいかなければならない最重要課題の一つ」と位置づけています。 日本は繰り返し大津波や地震の災害を受け、神官で歌人で随筆家の鴨長明は「方丈記」の中で、忠実に記載された被災と復興の記録が残されています。
例えば、災害の状況や人々の対応、復旧・復興を研究し、次なる災害に備える手掛かりにしてきました。
全国各層の慈善団体の取組のように、例えば東南アジア諸国に井戸の掘削や、浄水機の寄贈等を行うのも一つの方法ではありますが、これから先の災害への対処の仕方など各々一人ひとりが出来る限りの知恵を出し、協力してよりよい社会を構成したいものであります。
古来、禊のようにお水は、お浄めとして汚れた物、穢れたものを洗い流す作用と、また再生として命を育くむ力を備えていることに気づき、水に対する畏怖と畏敬の心を以て自然に感謝し、神仏のご加護を祈ったものです。

昔から使われている神社の井戸水