神道講話371号「霊峰白山 光翔ける草原にいだかれて」
一通の手紙
一昨年の春、一通のお手紙をいただきました。
それは平成20年8月から入院生活を送っておられる方からで、「病名は『末梢神経障害(ニューロパチー)』といって、手足がしびれて力が入らなくなり、呼吸も弱くなる、そして発症例も極めて少ない、原因も治療法も分からない難病であり、自然界ではとっくに死んでいるところですが、医師・看護士の方々、そして最新の医療機器・技術等によって生きています。」といった書き出しから始まりました。
自然への思い
今年55才を迎えられる方ですが、若い頃は非常に自然を愛し、特に白山へのあこがれが強く、初めて白山に登ったのが中学2年生の時、そして、石川県自然保護協会に入会し、生き物の観察や、自然環境の保護など、そこから自然への関心、そしてその志向性は自然信仰へと繋がり、宗教的な考えが自然への畏敬の念へ還元するという考えに至ったそうです。
想いを曲に
そして、日常の生活の中で、仕事や家事、育児の疲れなど、又、子供の安らぎと精神的な癒しの音楽は、伊勢の神宮・長滝白山神社・富山相倉・白山比咩神社・越前大瀧神社・那谷寺寺などでコンサートを開催した正に白山にご縁のあるシンセサイザー奏者「姫神」の曲でした。
あらためて生と死を意識する日々を送っている現在、昭和57年にチブリ尾根―別山―南竜―御前峯―釈迦岳を単独で、ゆったりと立ち止まって風を受け止めることに無上の喜びを感じながら5日間かけて歩いた時に、転法輪の窟の圧倒的な迫力、南竜のせせらぎにゆれる光の妖精、誰もいない草原を被いわたる美しい風、大空を遊び飛ぶアマツバメなどがそこにいて、そこで生まれた曲を白山比咩の大神に捧げたい、願わくば「姫神」の星吉紀氏に手を加えていただき音楽的に通用するような楽曲にして奉納したいと言うことでありました。
そのような経過により出来上がったのがつぎの曲です。
昨年8月25日に白山市と北陸放送の主催による「白山一里野音楽祭」に於いて「姫神」により公開生放送にて発表されました。
おわりに
白山は、日本三名山の一つ。その頂からの恵みは山麓一帯のみならず手取川・庄川・九頭竜川から日本海へ、又、長良川から太平洋へ及びます。美・食・遊・癒・命・祈…。先人は白山の恵みに感謝し、「生かされて生きている」事を肌で、心で受けとめていたと思います。
今年も7月1日の夏山開山を迎えました。奥宮の神域で大いなる息吹を感じていただけたら幸甚です。
次にこの曲によせた福井県勝山市平泉寺在中の大庭桂さんのエッセイ「告白」を掲げましたので、併せてご覧ください。
大庭 桂
幾千年もまえのこと…。
あなたはこの地の…山のいただきで母なる太陽をまつり、子ども達のために毎日祈られた。
そんな神話や伝説は、21世紀を生きる私たちには夢物語。
ですから私も、あなたを知らず生きてきたことを告白します。
人類の化学の進歩にもたらされた豊かさに、私たちは、あなたの存在を忘れた。
いにしえの日に、銀河の片すみの地球のこの地で、
あなたはこの星の母として、多くの命を生み、はぐくまれていた。
あなたの子は、誰もがあなたの分身として、あなたから頂いた心を持っていた。
あなたの王国は、感謝と思いやりにあふれた人々が平安に暮らし、長く栄えていた。
ところが、海の向こうに生まれたものたちは、鋭い金属の武器をたずさえ、
争いを知らぬあなたの国を侵略しようと、海を渡って押し寄せてきた。
国は踏み荒らされ、平和に暮らしていた人々はちりぢりになり。
あなたご自身は地の底の根の国に身を隠された。
あなたの国は滅び去りはしなかった。
やがて、国を取り戻す勢力が起こり、侵略者は海の向こうに去り、
あなたの子孫はやがてヒミコと呼ばれたり、大王(おおきみ)と呼ばれたりした。
あなたが身を隠されてから、何千年か…時がながれあなたの名前は、いつしか山の名前になっていた。
その山は夏の太陽のもとでも、頂に真っ白な雪が残り、
山にたくわえられた水や植物が、山すそに生きる多くの生き物を何千年も生かしている。
あなたの山の頂へ向かうとき、あなたの祈りが今も続いているのを踏みしめる山肌から感じた時の驚き。
あなたが、時に龍の姿で、時に多くの眷属を従えた女神の姿で顕れて…
人々はあなたのことを、シラヤマヒメと呼んだりハクサンククリヒメと呼んだり、
いざなみの大神、十一面観世音菩薩(かんのんぼさつ)と呼んだりしてきたが、
命の生みの親であるあなたを尊び畏れることを、
あなたのお山に登るまで、私はすっかり忘れていたことを告白します。
白山の女神様、私どもの命の源であるあなたのふところに帰った私の胸で、
あなたにいただいていた心が湧き上がる。
あなたのお心は、あなたに頂いた心は…
誰かを、何かを、生かそうとする、思いやりと感謝のみ…(終)