神道講話381号「命をつなぐ」
はじめに
昨年の豊年講秋季大祭特集号にて「タネを考える」と題して、「固定種」と雄性不稔の「交配種」(F1種)を紹介しましたが、特別崇敬者であります松下種苗店の松下良氏より、有り難いお言葉を頂戴致しました。又、この神道講話をお読みになられた方々より、勉強になったとか、もう少し知りたいなどの声がありましたので、再度取り上げてみたいと思います。
固定種と交配種
「固定種」とは農家の方が一つの良質な品種で、栽培と種取りを繰り返し、性質を安定させた作物のことで、日本国内で広く栽培され、地域ごとに個性があり、各地で味や形が特徴的な野菜ができます。しかし、近年は交配種の種が普及し、「固定種」は衰退してしまいました。
「交配種」(F1種)とは、異なる品種を人為的に掛け合わた雑種のことで、形などが均一の野菜が大量に採れるが、その野菜から種を取って育てても一代目と同じ特徴の作物は育ちにくいため、ほとんどの農家は、毎年種を買い直さなければならない。そして、その種の生産の多くが海外に移ってしまっているのであります。
くわしくは日本経済新聞出版社より刊行された野口勲著の「タネが危ない」をご覧戴ければより一層お解りになると思います。
命、多様性をつなぐ
北陸中日新聞に“消え行く「固定種」の野菜を伝える”と題して石川県羽咋市菅池町の自然栽培農家枡田一洋氏の記事がありましたので、以下抜粋ですが紹介いたします。
枡田氏は「人の手で受け継がれてきた種を未来に残したい」として昔ながらの野菜を継承するために平成24年4月、6000平方メートルほどの土地で農業を始めました。荒れた耕作放棄地は収穫もわずか。そして以前使われた肥料が土に残っていた畑には害虫が集まり、農薬なしで育てたトマトは全滅したそうです。
農家で食べていくには5年は掛かると聞いてましたが、「生きる上で大事なものは自分で生み出したい」と心に決め、くじけることはなかったといいます。
就農1年目は50品種を栽培し、キュウリだけでも5種類試しました。イボは多いがパリっと歯応えのいいものや、実の半分だけ白いものができ、「同じキュウリでもこんなに違うのか」と特徴の豊かさに目を見張った。
種の力を信じて
毎年一番出来栄えの良い実は食べずに残して種を取る。土地に適応した実から種を取るため、栽培も年々しやすくなる。「種と一緒に成長している感覚が、究極のものづくり」とのめり込んだ。安心できる野菜を作りたいと志した無農薬無肥料の自然農法、「一つ一つに個性がある自然の生命をつなぐ。それは人も同じ。農法も生き方もいろいろ選択肢があればいい。」自分のやり方とは違うが交配種や農薬を使う農業の必要性もまた認めている。
大事なもの
農業を始める前、長女は生後1年間は肌が赤く荒れ、ひどくかゆがった。家族の食生活を改め、無農薬の野菜を選んだ。そしたら徐々にではあるが、症状が落ち着いていくのを見て、食べ物の大切さを痛感したといいます。
枡田さんから種を仕入れている埼玉県飯能市の固定種専門店の店主野口勲さんは花粉が出ず、子孫が出来ない交配種の販売が増えていることを心配し、「本来の野菜の種が消えてしまう」と固定種の大切さを訴える。
そして、この店に種を卸す農家は80〜90代ばかりだったが、最近枡田さんたち若い世代も現れ始めたことを喜んでいる。
昨年(平成26年)は固定種のナス300株につややかな紫色の実が鈴なりになった。形もきれいな丸みを帯び、かじるとりんごに似たほのかな甘みが広がった。
ナスは連作に不向きとされるが、あえて、土地の環境に適用させようと同じ場所に播いた。肥料も農薬も使っていない「一級品のナス」が育ち、良い子孫を残そうとする種の生命力を感じた。
むすび
最初は不便だと思った山奥の耕作放棄地が今は宝の土地に見える。
山あいの暮らしにもなじんできた。移住二年目に復活した秋祭りの獅子舞では獅子頭を担いだ。当番で神社の掃除や供え物の準備もした。こうした集落の伝統も次世代に残したい。それは固定種を受け継ぐ大切さにも通じると考えている。野菜は東京や金沢の小売店などに出荷し、何度も買ってくれる固定客もできたと聞きます。私たちも出来るだけ固定種の野菜を食し健康で元気に過ごしたいものです。
ちなみに、枡田一洋さんの作る野菜の販売先はオリジナルビレッジ(http://www.originalvillage.net/)で調べられます。
本稿は北陸中日新聞ポプレス第380号より多大のご教示を戴きました。特記して御礼申し上げます。