神道講話382号「森をつくる」
はじめに
本年5月17日に石川県小松市木場潟を会場として第66回全国植樹祭が「木を活かし 未来へ届ける ふるさとの森」を大会テーマとして執り行われます。
遠いご祖先より代々受け継いできた日本の国土、島々、山脈の美しい眺望は、明治期以降の新たな産業の勃興、人口の増加による薪炭の供給、更には坑木確保のための森林伐採また、先の大戦での焼野原に加え銅製錬で排出される亜硫酸ガスなどの公害により植生が阻害されたことにより、「荒れた国土に緑の晴れ着を」スローガンに掲げ、昭和22年に第1回の「植樹行事並びに国土緑化大会」が行われ、以降毎年開催され緑化運動の発展につながりました。
本県では、昭和58年に、第34回の植樹祭が行われ、河北郡津幡町の石川県森林公園で植樹行事、旧鶴来町の石川県樹木公園でお手まき行事が行われ、その際に昭和天皇には当社を参拝、御昼食をとられました。
また、全国育樹祭は継続して森を守り育てることの大切さを普及啓発するために昭和52年から全国植樹祭を開催したことのある都道府県において国土緑化推進機構と開催県の共催で毎年秋季に行われています。
全国植樹祭において、天皇皇后両陛下がお手植えされた樹木をお手入れ(枝払いなど)する行事で、現在は皇太子徳仁親王と雅子妃が出席されておられます。
国土緑化運動(緑化推進委員会趣意書より)
「緑の募金」運動は、戦後の荒廃した国土に緑を取り戻す国土緑化運動として昭和25年発足以来多くの国民に支えられ森林整備、学校・公共施設の緑化、次代を担う緑の少年団の育成など国内の緑化推進の原動力として大きな役割を果たしてきました。
森林・緑は、人間はもちろん、あらゆる生物の命の源である水を育み、国土を保全し、様々な災害から私たちの生活を守ってくれるかけがえのない財産です。
近年、地球温暖化問題や生物多様性保全の問題が大きく取り上げられるなか、温暖化を防止する二酸化炭素吸収源としての森林や緑に大きな期待がかけられています。
緑化推進委員会では「緑の募金でふせごう地球温暖化」をスローガンに「緑の募金」運動を展開しています。
明治神宮の森
明治神宮の森は「代々木の杜」とも呼ばれ、東京に暮らす人々の緑のオアシスです。広大なこの森が荒地から人の手によって造られた「人工の森」であることはあまり知られていません。
明治神宮は、「永遠に続く鎮守の森をつくる」として10年、20年、50年、100年のスパンで、150年後の東京に広がる天然自然の常緑広葉樹の「鎮守の森」を造ったのであります。
植生の更新は、その場に生えてきた植物たちの競争の末、はじめは光に強い種類(陽樹)から茂り、それらが伸びて樹林内が暗くなると、日陰に強い種類(陰樹)が育って最終的には「極相林」という姿に近づいていく「植生遷移」という考え方が生態学の中にあるそうです。
「鎮守の森」は、大量に落ちる枯れ葉、枯れ枝を竹箒(たけぼうき)を使って、玉砂利を動かさず森に戻す。その葉や枝は微生物などによって分解されて、それがまた木々を養う栄養となり、森が成長していく、まさに循環型なのであります。
森が海の再生を助け水産資源を育む
森に降った雨は、川から海へと流れる。間伐などの手入れがされた人工林や広葉樹林の土壌に染み込んだ水は、植物プランクトンの栄養源が豊富でカキなど貝類のエサになるほか、それを食べる動物プランクトンから魚へと食物連鎖で繋がっています。
荒れた人工の山林や伐採後に放置された山は、雨水が土壌に十分に蓄えられず地表を流れてしまう。そのうえ家庭や工場、農業の排水が川や、海を汚染してしまう。
海の再生は、川の再生。そして森の再生を目指して「森の渚環境美化推進機構」は漁師が主体となって、植林や森の手入れをする活動を行っています。
海から蒸発した水が、大気に冷やされ雨となり、雪となって山々に降り注ぎ、雪解けと共に山や野原を潤し、伏流水となって、人間だけでなく全ての動物植物を生かし育んでいるのです。
むすび
平成23年3月11日、東日本大震災は青森県から福島県までの沿岸部で、地震と津波によって大きく被災。
有識者は「瓦礫を活かす森の長城プロジェクト」を組織し、震災で発生した瓦礫と土を混ぜて高さ5メートル程度の盛土を築き、その上にシイ・タブ・カシなどの常緑広葉樹のポット苗を植える。
それは、成長と共に瓦礫を抱いて地中深くまで根を張ることにより津波で倒れることもなく約15年で高さ20メートル位の立派な森となる「いのちの森」つくりの活動です。
当社としては、この事業の立ち上げから義援金を拠出、春には毎年若手神職を派遣し、植樹の指導ボランティアを実施しております。
植樹祭にあたり木を植えるということがいかに大切かということをもう一度考え、本年の植樹祭が盛大にそして成功裡に終えることを祈るものです。