白山比咩神社のコラム「神道講話396号」を掲載しています。

神道講話

神道講話396号「いのちの水」

はじめに

白山は、富士山、立山と並んで「日本の三名山」とうたわれる美しい分水嶺であります。
その雪解け水を集めて流す手取川(石川県)・九頭竜川(福井県)・長良川(岐阜県)・庄川(富山県)によって、肥沃な土壌と豊かな樹林で覆われた加賀平野・越前平野・濃尾平野・砺波平野があります。
そして、この「白山」のお山のおかげによって「お水を頂くことが出来る」のだ、「白山比咩大神」さまの大御稜威によって「生かされて生きている」のだという感謝の気持ちが、「白山信仰」であり「山岳信仰」なのであります。

真っ白な雪に覆われる白山

調和を求める大自然の活動は、私たち生物に限りない恵みを与えてくれています。
日本人は古くから大自然の森羅万象には「神」が宿っていると考えており、八百万の神々と表しています。
日本野鳥の会元会長の中西悟堂先生が「白山の美林に讃す」という詩の中で次のようにうたっておられます。

白山の美林に讃す

水の恵み

日本は山から流れる小川や沢水・泉など、どんな所でも飲み水として使えます。
鉱山などで汚染された川は別として、子供の頃、沢ガニやカエル・魚類の棲む沢水は、毒が入っていないので飲めると教わりました。
白山の延命水や登山道のあちこちの沢から流れる水はとても冷たく美味しいものです。簡易水道など、蛇口をつけると安全な飲み水と勘違いされている人が多くいますが、飲める水と飲めない水くらい自分で判断できるようにしたいものです。
越前大野の湧き水「御清水」は、一番上が飲み水・その下流は、野菜・お米を洗うなど、食品を洗う水に使い、またその下では、洗濯をするなどお水を大切に使っています。
生きとし生ける全ての動物・植物は、水がなければ生きて行けないので、水を大切にするために必要な管理が求められ水道法が確立されました。

水を守ろう

水道法改正案は3月に閣議決定されました。
水道法改定は、「広域化」を目的とし、都道府県への統合を促し、「官民連携」という名目で民営化への橋渡しをしようというものであります。私たちの命の根源である水を「広域管理できる第三者に業務を委託するための規定の整備」だと説明していますが、広域であればこそ民間業者が参入する、その条件整備となってしまうのであります。
本来、水の安全管理や確保は採算を度外視して行政が行うべき事業であると考えます。
過去、いくつかの国で水道事業を民営化した結果、値段が高騰して使いづらくなり、ついには安全性や恒常性が保証されなくなったため、再び公営事業に戻そうとしましたがノウハウが失われて莫大な費用を要することになってしまったという事例が頻発したそうです。安易に水道の民営化に走ると取り返しのつかない問題が生じ、命の危機に曝されかねないのであります。

境内で汲める白山霊水

むすび

私たち人間をはじめとするこの世の中の「生きとし生けるもの」は太陽と空気と、水と、大地など「大自然の恵み」によって「生かされて生きている」のであり、それ故、日本人は自然災害が起こっても、これを自然が人間を征服するものだとは思わず、これに順応していけば、必ず自然は私たちに限りない恵みを与えてくれると信じてきたのであります。
日本人にとって自然は、人間と対立した関係にあるのではありません。
お水の神様「生きとし生ける命」の親神様と称え奉る白山の大神様のもと、水の大切さ、ありがたさをもう一度考え、豊かな資源を守り、豊かな生活を営む為にしっかりとした水管理を考えたいものです。

獅子吼から見た手取川と加賀平野