神道講話397号「天津罪と命」
はじめに 〜稲作文化のきまりごと〜
神道中臣祓大祓詞の中の天つ罪は、畔放ち・溝埋・樋放ち・頻蒔・串刺・・・と農作業で行ってはいけない事柄が記されています。
畔放(あはなち)とは、田圃の畔を取りこわし、稲田の水を外に流す行為のことで、溝埋(みぞうめ)とは、畔と畔の溝を埋め、田圃に水が入らなくする行為をいい、樋放(ひはなち)とは、樋をかけて山の谷から田圃に水を引いて来るのを取り放つ行為です。以上は何れも稲田と水との関係について妨害することであります。
次に頻蒔(しきまき)とは、1度稲種を蒔いた他人の田圃の上に、再び種を蒔くことをいいます。串刺(くしざし)とは、他人の田圃の境界に境界を示す竹を立てることで、共に他人の耕作田を横領する事であります。また、一説には頻蒔は2度稲種を蒔いて耕作を無駄にすること、串刺は田圃に竹の串を刺し立て、耕作人に怪我をさせることだとも言われています。
これらがなぜ天つ罪になるかといえば、稲は人が生きる命の根であるからであります。
また、大祓詞には「過ち犯しけむ種種の罪事」とありますが、過ちとは、あやめる(殺す)という言葉があるように、現状を混乱し、破壊することです。また犯すとは、一定の場所から侵出し、はみ出して行く、即ちあるべき姿を逸脱する姿を言うのであります。
つまり神の心を基準としていえば、神の心を逸脱し、神の心を乱すような行為をすることが「過ち犯す」という事になるのであります。
やりたい事をやらせない、清く正しく在りたいものを在らせないというのも過ちの一つであります。
種子法について
戦後の食料増産を目的として1952年に「主要農作物の優良な種子の生産・普及を進める必要がある」との趣旨で制定されたのが種子法で米・麦・大豆が「主要農作物」として指定されました。
これらについて各都道府県の奨励品種の指定、原原種・原種の生産、種子生産圃場の指定、種子審査制度などが実施され、種子の開発、安定供給や品質確保に努めると同時に、農業試験場などで気候や風土に適した優良な品種を推進し、保存などの予算措置が種子法で保証されることにより、農家は安心して安価に種子を手に入れることができたのであります。
稲の奨励品種は「こしひかり」「ささにしき」「ひとめぼれ」など全国で450種に上っていると言われています。
この種子法が来年4月で廃止されることに決まりました。民間企業の参入が容易になることで、新たな種子開発が進み生産者がより幅広く種子を選択できるようになり、品質や価格面で消費者の選択の幅も広がるとしています。
そうすると、今後起こり得る事柄は、公的機関への予算措置が法的根拠を失うため、縮小・廃止される可能性が高くなり、今まで開発・保存してきた種子やその関連事業が外資系を含む民間企業に払い下げられることが考えられます。
公的種子事業で培われた技術やノウハウが民間企業に移転し、多国籍種子企業が遺伝子組み換えなどによって開発したごく少数の品種に徐々に入れ替わり、民間企業が開発した品種は、種苗法で守られる一方、農家の自家採種や研究開発への利用にも制約がかかり、生産者の自律性は失われ、尚且つ多国籍企業が種子を独占し、農家は毎年高い特許料込みの種子を買わねばならないことになり、日本の農業は益々衰退して、食料自給率が低下し、食の安全保障の観点からも大きな問題になりかねないと思います。
そこで、来年4月の廃止を前に、日本独自の種子を守ろうと全国の農協と生協のほか、料理研究家など生産者と消費者が連携して「日本の種子を守る会」が設立されました。
むすび
野菜の種子はすでに90%が海外生産ですが、稲の種子は今でも100%国産で、多くのおいしい米を作り出してきました。
コメとは、小芽、イネとは生根、ヨネは世根だと言えます。米により生かされて行く有り難さに対する感謝の意が、コメ、ヨネ、イネなのであります。この生命は神から頂いたものでありますから、それが採れなくなることは、人間の生きて行く生命の根を絶つことになるので、天つ罪になるのであります。
未来の品種開発や種子生産に関わる人材の確保や命を育む日本の食料危機を招かないよう、また今後予想される気候の変動に、事前に冷害、高温耐性、耐病性などを高めた品種などを考慮し、地域ごとの天候や時代ごとの文化や社会のあり方など多種多様な特徴のあるそれぞれの地域に適した品種を開発し、天神地祇のご加護をいただき、末永い日本の平和を祈るものであります。