神道講話409号「大嘗祭と農」
◆ はじめに
天皇陛下の皇位継承に伴う重要祭祀「大嘗祭」で使うコメは宮内庁から5月13日に宮中三殿に於て亀トによって東日本の悠紀地方は栃木県、西日本の主基地方は京都府と定められました。具体的な選定は、府・県が行うこととなりました。
銘柄は栃木県は「とちぎの星」、京都府は「丹波キヌヒカリ」と決定され、条件は“それぞれの銘柄が育成できること”、“農業用水に生活排水が混ざらず、湧水による清浄な水源があること”、“田の近くに住宅がなく、式典会場の敷地が確保できること”などで、自治会と生産組合の協議により、栃木県は高根沢町大谷下原の石塚毅男氏、京都府は南丹市八木町氷所の中川久夫氏が「大田主」に決まりました。各農業団体を始め関係機関には、耕作などの協力体制や情報漏洩の防止策などの依頼が宮内庁から出され、各「大田主」は非常に神経を使いながら地区で団結して取り組み、去る9月27日に「斎殿抜穂の儀」が行われました。
二つの田からは精米180キロと玄米7.5キロがそれぞれ納められ、宮内庁が今年の相場に基づく米の代金を支出されたと聞き及びます。
◆ 食文化の変化
野菜の種を蒔いて、育てて、その野菜を食べるその暮らしが少しずつ変化した理由は、産業の発展による影響が大きく、四季の変化に寄り添う食から、産業の発展に寄り添う食へと変化してきました。
春夏秋冬に関係なく旬の味を忘れ、きゅうりもトマトもきのこも八百屋はもちろんスーパーマーケットやコンビニ、今では薬局にまで野菜が販売されています。
そして、それは品質も画一化され、曲がったきゅうりや二股の大根、人参などは見かけません。現代の農業は人工的に規格化され、味も形も価格帯もある意味デザインされています。
それはF1種(雑種第一代)の野菜で機械化が進んだ農業に変わってしまったからで、それは在来種(古来種)を手仕事で育てたその地域の食物が、流通と消費に負けてしまったということでしょうか。
農というものには自然と共に「在る」そこから生まれた野菜の色や形はひとつひとつ違いがあり、価格も季節によって収穫する量によって違う訳であります。
農には地域性がらみの食文化があり、在来種(古来種)があるからこそ存在する素晴らしい文化や伝統が全国に残っているのです。
この文化を伝承しているのが大嘗祭なのであります。
◆ これからの農業
日本列島はあちこちで自然災害が起り、地震、土砂崩れ、水害、強風など被害が拡大しております。
そして、里山ではクマやイノシシ・サル・シカなどが出没し、農作物の被害も大きく報道されています。
加えてイノシシによる豚コレラは、岐阜・愛知を始めとして埼玉や長野それに北陸富山・石川・福井にも広がり養豚業者を苦しめております。
また、日米貿易交渉では去る9月25日に日本は「約7800億円分の米国農産物に対する関税を撤廃・削減し、市場を開放する」としています。
仮に米国の農業が何らかの災害により他国への輸出が止まってしまった場合、国民の食糧自給率を急には上げられません。
もし南海トラフ地震が起り関東・東海地方が被災したとしたら戦中の東京大空襲や関東大震災のような疎開生活は、地方でも農地の荒廃や畜産の減少で、食糧の不足は目に見えております。
重ねてF1種の農業は遺伝子組み換えで作物は育ちません。
今一度、身近な所から「生きる」為の食糧危機を真剣に考える時が来ていると感じます。
本年の大嘗祭を機にもう一度「食文化」について考えましょう。