神道講話412号「さきのおしえ」
◆ はじめに
物事は「先(さき)のおしえ」であります。先(前)とは過去のことを指す場合とこれからのことがらを云う場合があります。
私たちは古き文献を教訓として今を生き、これから起こることへの指針としなければなりません。
日本全国どころか、世界中で新型コロナウィルスの感染により残念ながら亡くなられる方々が増えています。古来さまざまな形で私たち人間に疫病を患わせ、社会の平和や進歩をさまたげる悪神(枉津日神まがつひかみ)として疫神(「えきじん」とも「やくじん」とも言いますが)、厄病神があります。文献には中世に御霊が怨霊の活動によって疫病が流行すると考えた御霊信仰(ごりょうしんこう)もありました。
しかし大宝の神祇令(じんぎりょう)には鎮花祭(ちんかさい)の名が見られ、春の花の散る頃、流行病のはやるのは疫病が花びらに付いて飛散するからであると考え、これを鎮めるための鎮花祭が執行されました。道饗祭(みちあえのまつり)もまた同じとされています。
◆ 鎮花祭
当社では4月15日に薬をお供えし、桜花を献じて鎮花祭をご奉仕しておりますが、鎮花祭の発祥は奈良県の大神神社(おおみわじんじゃ)で、崇神天皇(十代)の頃、今から約2千百年以上も前になりますが、各地で疫病が流行し、天皇が心配していると、夢にオオモノヌシノミコトが現れて、自分を祀れば疫病がおさまると告げられたので、崇神天皇が大物主神の子である「大田根子(おおたたねこ)」をして大神神社に祀ったという話が「古事記」にみえますが、これが鎮花祭の始まりと伝えられ、現在では4月18日にご奉仕されています。
◆ 伝染病
伝染病の歴史を見ると、6世紀にエジプトから始まり、14世紀にはヨーロッパ、そして今から約2百年前の19世紀にインド中国まで伝播した「ペスト」があります。人々はおののき、安全を求めて各地に疎開し、その先々で病毒までも疎開させてしまい、世界で5千万人とも言われる死者を出しました。
また今から約百年前の大正7年(1918年)パンデミックとも呼ばれるスペイン風邪は今で云うインフルエンザのことであり、当時の世界全体の人口が18億人から20億人であると推定され、そのうち推定感染者は約五億人を超え、世界人口の約4分の1が感染されたことになり、そのうち死者数は1,700万人から5,000万人ともいわれ、1億人に達した可能性も指摘されるなど、人類史上最悪の感染症の一つでありました。
アメリカ合衆国ではパンデミックの最初の年に平均寿命が約12才も低下したと伝えられています。
第一波は大正7年(1918年)3月アメリカで起こり、第一次世界大戦と共に5月から6月にかけてヨーロッパで流行。
第二波はその年の秋に世界中で同時に発生し、病原性がさらに強まり重篤な合併症を起し、死者が急増しました。
第三波は大正8年(1919年)春から秋にかけて流行し、医師、看護師の感染者が多く医療体制が崩壊してしまいましたので、感染被害が拡大しました。この為、第一次世界大戦も終息を早めたと言われています。
◆ むすび
私たちは、自然現象による地震・津波・台風など事あるごとに崖崩れ・風水害の対策に力をそそぎ神々に祈りをささげ、大難を小難に小難を無難に願いを込めて生きて来ました。
又、ウィルスにしても、牛の口蹄疫、鳥インフルエンザ、豚コレラなどの家畜被害にも対応してきました。人々は折々に酷(きび)しい禍神(まがつかみ)の枉事(まがごと)や荒(すさ)びに対しても災いを試練と受け止め神々に「いのり」共々に力を合わせ、新たな創造を基に生きて来ました。
これからも神々に希望と勇気をいただき、災厄を克服し、人々が共に生き、共に進み、助け合いながら地球環境を考え、平穏無事を祈り、平和でゆとりのある生活が送れるように努力しましょう。
このウィルス事件で全てが自粛の流れの中で「神まつり」や「神賑い」も縮小されましたが、この件が終息し普段の生活に戻った時には感謝のまごころを込めて、盛大に神賑を催したいものです。
(4月15日記)