白山比咩神社のコラム「神道講話426号」を掲載しています。

神道講話

神道講話426号「薬草と呼ばれる山野草」

抗ウイルス作用植物 提供 内藤記念くすり博物館


◆ はじめに

令和4年5月、日本植物園協会の総裁を務める秋篠宮皇嗣さまは、岐阜県各務原市「内藤記念くすり博物館」で開催された全国大会にご臨席あそばされ、式典に先立ち博物館付属の薬用植物園を視察されました。
秋篠宮さまは、担当者の説明を熱心に聴き、胃腸薬として使われるウコンの一種を写真に撮影されるなど興味深そうに見学されました。
昭和天皇は、「雑草という名の草はないよ」と仰せになったことを思い出します。

◆ 民間薬・漢方薬の歴史

日本列島に大和民族が定住して、年月が経ちましたが、私たちの先祖も下痢や高熱などの病気にかかったときに、身近にある薬草を採ってきては選び出し、これをうまく用いて病気を治していたと思います。
飛鳥・奈良時代になって、当時の先進国であった中国へ遣隋使や遣唐使を派遣し、あるいは渤海(ぼっかい)の国から渤海使を迎え、新しい文化が奈良の都に入ってきましたが、その中に医療関係の書物や薬が入ってきたのであります。
これらの書物には頭痛にはこれ、腹痛にはこれと、治療法が詳らかに書かれており、それまで神代の時代から伝承されてきた日本独自の治療法と融合し、新しい医術・医療が確立し、長い年月、日本人によって創意工夫され、研究されてきましたが、江戸時代には西洋医術・医療が入ってきて、千年も続いた民間薬・民間療法からの転換を計ったのであります。
江戸城加賀の上屋敷のそばの小石川養生所もその一つです。
そして明治以降、現代までひたすら西洋医療、医学を追究し、日本は世界でも有数の医療の進んだ国となりました。
一方、新薬の開発が進むにつれ、次第に副作用が問われ始め、人々は従来の草根皮の漢方療法とか、民間療法に関心を寄せるようになりました。
漢方薬・民間薬あるいは合成医薬品にはそれぞれ良さもあり、また欠点もありますが、新薬一辺倒、漢方一辺倒ではなく双方の良い所を見い出し、病に打ち勝って行かねばなりません。

◆ 七草

私たちになじみの春の七草は、正月七日の朝に七草粥を食する事は、周知の通りであります。
これは「七種の節句」の略で正月七日は「人日(じんじつ)」と呼び五節句の一つと数えられ、この粥を食すると邪気を払い、病を除くといわれ、日本全国で行われています。
古記録では諸説ありますが、春の七種は芹(せり)・薺(なずな)・御形(ごぎょう)・繁縷(はこべら)・仏座(ほとけのざ)・菘(すずな)・蘿蔔(すずしろ)のことを指します。薺はペンペン草、御形は母子草(ははこぐさ)、繁縷ははこべ、仏の座は田平子(たびらこ)、菘は蕪、蘿蔔は大根のことであります。
ちなみに秋の七草は、秋に花が咲く七種の草で、萩(はぎ)・尾花(おばな)・葛(かずら)・女郎花(おみなえし)・藤袴(ふじばかま)・撫子(なでしこ)・朝顔(あさがお)(又は桔梗(ききよう))を言います。

◆ 七草茶

白山も山菜・薬草の宝庫であります。白峰で作り販売している春の七草茶は、どくだみ・よもぎ・すぎな・柿・笹・あまちゃづる・棒茶であり、秋の七草茶は、くこ茶・びわ茶・よもぎ・べに花・とちゅう葉・松藤・棒茶を製品化しており、滋養・健康・無病息災極まりなしであります。
また、黒文字(くろもじ)といえば、和菓子の楊枝(ようじ)が一般的ですが、古くは特別な木として、マタギが狩りの際に山の神にお供えするときに用いたり、祭壇をつくるための素材でありました。
この神聖な力を宿す黒文字の枝や花のつぼみも入っている黒文字茶があります。
優しい香り、小さな萩のような茶の趣も新鮮であります。
白山麓一里野温泉では、サウナにこの黒文字の水を掛けてアロマセラピーとしており、病気や外傷の治療・予防、心身の健康やリラクゼーション、ストレスの解消などにも活用されております。

「秋の七草茶」と「黒文字茶」

◆ むすび

山岳信仰は、学術調査では4世紀頃には山頂に登ったと研究されていますが、山岳考古学では、11世紀頃の遺物が発見され、特に白山は古記録では養老元年(717)に泰澄が登拝という開山伝説が伝わっており開山から1300年余を数えていますが、明治初期迄は山伏修験の霊山でありました。
そしてその修験者が、山菜を食し、山野草に薬効を認め、世に広めたのであります。
例えば伊吹山のヨモギや信州山岳地帯のイタドリなどは痛取(いたどり)からきたという説があり、転んで小さなケガをした時に、生の若芽をもんで患部にすり込むと、出血は止まり痛みもとれるとされています。
白山でもオオバコ(生薬名車前草)は鎮咳剤やむくみの時の利尿薬など、また、ウドは頭痛、めまい、歯痛の薬として使用されています。

イタドリ

このように、多くの山野草は食用の他に薬として利用されていますが、無肥料・無農薬である山の恵みは、自然の神のなせる術(わざ)であり、修験者の気づきの賜であります。
今年は白山国立公園指定60周年を迎えました。霊峰白山の登山口別当出合から御前峰、大汝峰、別山までの広大な地域(特別保護地区)は、霊峰と呼ばれる如く白山奥宮の境内地であります。
神々が鎮まりますお山を、これからも大切に感謝の心を以って、後世に伝えていきましょう。
薬草は、春に新芽を摘むものや秋に根を掘り起こし使用するものがあります。日本中・世界中を悩ませている新型コロナウイルスには日も早い特効薬が開発、承認認可されんことを切に願うものであります。
(薬草を詳しく知りたい方は、木村久吉氏の「最新薬用植物大辞典」をご覧下さい)

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