神道講話427号「食糧(食料)危機 −お供へ物がなくなる?−」
◆ はじめに
以前社報「白山さん」第379号(平成26年11月1日号)に「タネを考える」と題して雄性不稔のF1種について紹介させて戴きましたが、改めて考えてみたいと思います。
F1種は、現在雄性不稔という異なる性質のタネを人工的に掛け合わせて作った所謂雑種の一代目、つまり突然変異の花粉のできない個体から作られることが多く、世の中に流通している野菜や花のタネの多くは、F1種(一代雑種・交配種)であります。
子孫を残せないミトコンドリア異常の植物だけが、たった一粒から一万、一億、一兆、一京と無限に殖やされて、世界中の人々が食べていることをどれだけの人が知っているでしょうか。子孫を作れない植物ばかり食べ続けていて、動物に異常は現れないのだろうか。
◆ 物流(貿易の停滞)
今、世界の穀倉といわれるウクライナが戦禍に見舞われ、ロシア軍によって農地は戦車に踏みつけられ、ミサイルや砲弾によって無数の穴があき、地雷の埋設、水路は壊され、農民も兵士にくり出され、おそらく来年は7千万トンの穀物の3割以上が作付けできないと予想されています。
そして、作物だけではなく飼料や肥料も不足し、加えて地球温暖化による世界各地での異常気象で水害や旱魃(かんばつ)、動力などのエネルギー不足等々、来年は何とかやり繰りしたとしても、再来年はF1種の為、作付けも出来ず世界の食糧(食料)危機が訪れます。
ここで出番は在来種(固有種)です。それは、地域で何世代にも亘って育てられ、自家採取を繰り返すことによって、その土地の環境に適応するよう遺伝的に安定した品種を「固有種」といいます。
◆ 地産地消
政府は、食料安定供給、農林水産業基盤強化本部を立ち上げ、自国民の食を確保する食糧安全保障を強化するとしています。
- ウクライナ危機で供給が不安定化している小麦や大豆、飼料作物の国産化を推進し、作付け転換の支援を拡充
- 肥料の国産化や安定供給を目指し、下水汚泥や推肥の利用を拡大
- ITを活用したスマート農業を促進
- 食品ロス削減対策を強化し、困窮家庭に食品を提供するフードバンクや子ども食堂への支援の充実
を考えたいとしています。
すでに千葉県のいすみ市では、地産地消の実践として、市の農水課職員が教育委員会と協力し、学校給食で地域の在来種(固有種)を使用、消費の援助により地産農家が成り立って行くような仕組みを構築しています。
また、石川県内では羽咋農協が在来種(固有種)に力を入れて取り組んでいますし、能登半島の先端珠洲市の大浜大豆、加賀野菜など地域で守り育てた野菜を地元で消費拡大を計り、金沢市に店舗を構える松下種苗店も「後世まで食べ継いでほしい」と加賀野菜の在来種に前向きであります。
◆ むすび
私共の神社では、毎朝日供祭と称し、米・酒・塩・水、そして季節の野菜・果物・乾物をお供えし、世界の平和、皇室の安寧、氏子崇敬者、地域の安全を祈願します。これは大祭・中祭・小祭でも主旨は同じですが、神饌物(お供えもの)が多少違ってきます。
その大切な祭典にお供えする野菜・果物・乾物・海魚・川魚などがなくなったら大変です。
終戦後は食糧難で焼け野原の東京の明治神宮境内など耕やせる所は耕し、神職が野菜作りに励んで祭典を奉仕した由を伝え聞いています。
現代では、企業の社地で畑作りを部署対抗や各課で競って野菜作りをしたり、都会では屋上で野菜・お花・あるいは、養蜂などを行っている事業所もありますが、その際にもF1種ではなく固有種を栽培した方が良いと思います。今では技術も発達していますので、水耕栽培も有効だと思います。
戦後の食料難の時のように都会の人々が田舎に疎開してきた時に、今の田舎の生活は都会と同じようにお店で野菜など食べ物を調達し、田畑は休耕田(地)と化し、悲惨な将来が想像されます。
神社でも氏子崇敬者の皆と力を合わせ、休耕田を一日も早く献穀田・御薗(みその)として活用し、「地域で守る鎮守様」として大神様の御加護を戴けるよう努力する事が肝要であります。)