白山比咩神社のコラム「神道講話436号」を掲載しています。

神道講話

神道講話436号 絶やすな・民のまつり「甦れ能登のまつり」

あばれ祭り(能登町)


◆ はじめに

まつりとは儀式を行って神霊をなぐさめる。あるいは、神としてあがめ安置する事を意味します。神社で行われる日々の祭典は、主に明治以降に制定された太政官符によって執り行われる「まつり」であります。
そして神社の氏子や崇敬者が集い、いわゆる神賑いとしての「民のまつり」というものがあります。
特にこの度被災した能登地方では古来から伝承され、「無形文化財」として指定を受けている「まつり」が沢山あります。(一覧表参照) その中には神と人あるいは、農業・漁業の守護神として行われてきた神事や「あえのこと」などがあります。
また「曳山祭り」や「キリコ祭り」など神賑いとして皆でお祝いするまつりもあります。


能登のお祭り一覧表
祭り場所
16叩き堂祭り珠洲市片岩町
10恵比須講祭輪島市輪島崎
14〜20面様年頭輪島市輪島崎
23あまめはぎ能登町秋吉、宮犬、清真、河ヶ谷
6ぞんべら祭門前町鬼屋
11起舟能登町一円
12万歳楽土門前町走出
16もっそう祭輪島市久手川町
中旬十七夜祭能登町重年
32石仏山祭能登町柿生(神道)
15的打神事珠洲市三崎町寺家
42酒樽がえし能登町藤波地区
4〜6曳山祭輪島市河井町・鳳至町
8げんぞまいり(見参祭り)穴水町甲地区
8〜9曳山奉幣祭(ちょんこ山)七尾市街地西部
第3土・日曳山祭能登町宇出津地区
52〜3とも旗祭り能登町小木
3〜5青柏祭七尾市街地中心部
3曽々木麒山まつり輪島市町野町曽々木
7第1金・土あばれ祭り能登町宇出津地区
第4土曜日松波人形キリコ祭り能登町松波地区
20〜21飯田町燈籠山祭り珠洲市飯田
海の日の前日恋路火祭り能登町恋路(恋路海岸)
最終土曜日向田の火まつり能登島向田町崎山広場
23長谷部まつり穴水町川島
31〜8/1名舟大祭輪島市名舟町
87宝立七夕キリコまつり珠洲市宝立町鵜飼地区
13おしょうらい志賀町上野
17〜18黒島天領祭輪島市門前町黒島地区
18お小夜祭輪島市門前町鵜山
10〜11皆月山王祭り輪島市門前町皆月
第1土曜日石崎奉燈祭七尾市石崎町
第1土曜日珠洲ちょんがり祭り珠洲市飯田町
第4土曜日にわか祭り能登町鵜川
第4土・日冨木八朔祭礼志賀町富来地内
914〜15正院キリコ祭り(奴(やっこ)振り)珠洲市正院町
7いどり祭り能登町鵜川地区
第2土曜日寺家キリコ祭り珠洲市三崎町寺家地区
10〜11蛸島キリコ祭り珠洲市蛸島町
1117〜21ばっこ祭り中能登町能登部

◆ 能登のまつり

能登町秋吉など4集落で行われる国連教育科学文化機関(ユネスコ)無形文化遺産の伝統行事「アマメハギ」も今年は中止となりました。「家屋も道路も崩れており、子どもの安全を考えると到底できる状況ではない」と言います。
「アマメハギ」は家内安全と豊作を願う子どもたちの厄よけ行事、鬼役の小中学生が「アマメー」と叫びながら家々を回り火鉢に長く当たるとできる火だこ「アマメ」をはぐと脅かし、住民の怠け心を戒める「能登の来訪神行事」も中止のやむ無きに至りました。
また「あえのこと」は、農耕儀礼で稲作を守る田んぼの神様を祭り、毎年12月5日と2月9日に営まれ、12月は神様を田んぼから自宅に迎え入れ、収穫に感謝して入浴や食事でもてなして田んぼへ送り出し、豊作を祈願します。神様は目が不自由とされ、手を引いて案内をしますが、この度の地震で神様を祭る床の間の土壁が崩れ和室の床もきしむし、自宅も倒壊は免れたが近くの小屋で仮住いをしているのが現状です。
神様を送り出す田んぼも、土砂崩れでせき止められた川の水が一部に流れ込み復旧のめどが立っていない状態で、輪島市白米町の農家では水道が使えない中、1ヶ月遅れで「田の神様」を送り出す農耕儀礼を実施、豊作と家族の健康を祈りました。
風呂場にひびが入ってタイルが落ちるなどしていたため、お供え物も簡単な御膳で神様に延期を報告、応急的な修繕を行い、井戸水を汲んで湯を沸かし、神様をお風呂に案内した後「まだ水がでませんが」と口上を述べ、煮しめやみそ汁などを振る舞います。
魚もこれまでは輪島港に揚がった尾頭付きの鯛を用意してきましたが、出漁できないためフクラギの刺身を盛り付け、お迎えしたからには無事にお返しするのが筋でありますので、「お送りできてほっとしました。今後も絶やす事無くこの神事を続けていきます」と神まつりの伝承に力を込めていました。
また、里山里海の恵みに感謝し、巨大な山車や「キリコ」と呼ばれる灯籠を引いて大切に受け継いできた伝統行事もこの地震により「山車」に大きな被害が出るなど、祭事の存続も危機に瀕しています。
珠洲市の「宝立七夕キリコ祭り」では祭りに使うキリコが津波で流失、関係者・総代が全て被災していて地元におらず祭りの開催も話をする状況ではないと言います。

アマメハギ(提供:「能登の里山里海」世界農業遺産活用実行委員会)

◆ むすび

九谷焼作家の長老は「伝統」と「伝承」は異なるもので「伝統」はその地域と人々が時間をかけて築きあげたものであり「伝承」はその偉業を受け継ぐものであると教えてくださいました。
能登は文化と知性にあふれており、輪島塗に漁業も盛んで加えて豊かな神まつりも伝え守られてきました。
今、被災者は二次避難し、離村の状況といいます。1日でも早い復興を果たす為にも皆で伝統のまつりを復活させ、故郷へ帰り共に喜び「神人和楽」の心で大いに神賑いをもりあげましょう。
その1つの方法として石川県、そして北陸の、あるいは全国の大学生にまつりの参加を呼びかけ、「まつりの同好会」のような組織を立ち上げるのも良いでしょう。
まずはまつりの文化を絶やさないこと、地域の人々との交流を深め伝統文化の継承に一役かってもらうことを提案します。
また、四季折々の祭り(一覧表参照)に旅行業の方々の力を借り、「まつり応援割」などまつり参加型ツアーを企画する事も人々の交流と共に観光の一助となると思います。皆で智慧を出し合い心の交流を深め、能登の復興を応援しましょう。

あえのこと