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豊年講寄稿
用水の守り神「水戸明神」
手取川七ヶ用水土地改良区 理事長 本屋 彌壽夫
「霊峰白山」を源とする手取川は、加賀平野一帯へ農業用水のみならず、防火、消雪、生活用水等に利用され、ゆとりと潤いを運んで頂いている事は誠に感謝の念に堪えません。
我が土地改良区は、守護神として水戸明神(みとみょうじん)を祀り、毎年5月と9月に白山比咩神社宮司様斎主により水戸明神祭を斎行しております。
白山比咩神社が文明12年(1480)に火災で焼失し、三宮に遷座されるまで、安久濤(あくど)の森は白山比咩神社の社地であったことから古宮跡とも呼ばれ、手取川に臨む断崖上の森で、昼なお暗き深厳の境地を感ずるところで、今も白山比咩神社の飛地境内地となっております。
この白山本宮の末社の1つに三戸明神(みとみょうじん)があり、久しく絶えていたのを、昭和29年に手取川七ヶ用水土地改良区が再興したのであります。
三戸(みと)は水戸(みと)・水門(みと)、すなわち水の出入りするところ、或いは水の取入口などに設けられた水門(すいもん)を指し、そのミト口(ぐち)の守護神と仰がれたのが三戸明神(みとみょうじん)であります。
明治26年、7つの取水口を1つにした七ヶ用水の合口工事が完成し、古宮址の地下を隧道(トンネル)によって導水し、広大な扇状地に網の目の如く用水が行き渡る事となったのであります。
組織変更された土地改良区は昭和27年4月3日、古宮址に「神籬(ひもろぎ)」注1 をたてて第1回水神祭を斎行いたしました。
翌28年5月、石川郡内の町村長と能美郡川北村長及び土地改良区の役員で、再興奉賛会の発起人会が開かれ準備に取り掛かり、かくして29年4月2日には当時の前田宮司のもとに水戸明神新殿祭を斎行し、御霊代(みたましろ)を奉遷(ほうせん)し、翌日は新殿にて厳かに奉祝の祭典が執り行われたのであります。
水戸明神の社殿は、一間社流造り(いっけんしゃながれづくり)注2、銅板葺きで北に面し、前方には鳥居が建てられ、昭和55年に石造りの鳥居に改めました。平成18年4月には建立から50年が経過した社殿の柱などの損傷が目立ったため修復工事を行い、無事5月30日には春季祭を斎行した次第であります。
春からは美しい早苗が加賀平野一帯に植えられ、雪解け水を満々といただきながらその緑を濃くしつつ順調に生育し、やがて白山の大神様のご加護のもと実り多き豊かな秋を迎えられますよう衷心よりお祈り申し上げます。
注1 「神籬(ひもろぎ)」
神事を執り行う際、臨時に神を招請するため、室内や庭に立てた榊。しめ縄を張って神聖なところとする。
古くは、祭り等の際に、周囲に常盤木を植えて神座とした場所。
注2 「一間社流造り(いっけんしゃながれづくり)」
正面の柱間が1間(柱が2本)で、側面から見た屋根形状は対象でなく、正面側の屋根を長く伸ばし、優美な曲線形となっている。