白山比咩神社の「シリーズ企画 自然と生きる⑤「神と自然に感謝を捧げて恵みの水を分かち合う」」を掲載しています。

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シリーズ企画 自然と生きる⑤
「神と自然に感謝を捧げて恵みの水を分かち合う」
−本屋彌壽夫(もとややすお) 理事長を訪ねて−

(令和3年1月)

当社とご縁のある中から、自然を敬い、慈しみながら、日々の生業を営む方々の姿をご紹介します。

手取川七ヶ用水土地改良区(白山市西新町)

昭和27年に手取川七ヶ用水普通水利組合から組織改編して発足。地域の農業者を組合員として、七ヶ用水に関わる農業水利施設の管理や改修などに取り組んでいます。国や地方自治体とも連携しながら、七ヶ用水の恵みを手取川扇状地全体に行き渡らせるために、日々の尽力を続けています。

(写真)明治時代に建造された七ヶ用水取水口・大水門の前に立つ本屋彌壽夫理事長


白山の神が清める用水

平成26年から現職を務める手取川七ヶ用水土地改良区(以下、七ヶ用水改良区)の本屋彌壽夫理事長は、七ヶ用水と白山比咩神社の関係について、「用水の源である取水口のトンネルは白山比咩神社の古い社地の地下を通っています。つまり、白山の神様に常に水を清めていただいているようなものです」と明かしてくれました。
七ヶ用水とは、手取川から取水している富樫・郷・中村・山島・大慶寺・中島・新砂川の七つの用水の総称です。手取川下流の扇状地全体に網の目のように広がる七ヶ用水は、明治時代に行われた大改修によって、七つの取水口が一つにまとめられました。
その取水口の上にあるのが、かつて白山比咩神社の本宮が設けられていた手取川沿いの「安久濤(あくど)の森」です。昭和27年に七ヶ用水改良区が発足した際、この場所に用水の守り神として水戸明神を祀り、同29年に新しい社殿を設置しました。それ以来、七ヶ用水改良区は毎年5月と9月に水戸明神祭を執り行って、用水がもたらす水の恵みに感謝しています。春と秋の豊年講大祭にも欠かさず参加し、農業関係者を代表して、豊かな実りを祈念しています。
本屋理事長自身も松任地区の農家に生まれ育ちました。父親が七ヶ用水改良区の理事を務めていたこともあり、農業や人々の暮らしを支える水の確保について、強い関心を抱いてきました。その思いは地域の水資源を支える白山への敬意にもつながっています。
「白山があるからこそ、この地域は豊富な水を確保できています。扇状地も元々は山から流れてきた土砂です。白山は私たちにとって、決してないがしろにしてはいけない存在なのです」と熱を込めて語る通り、本屋理事長は水戸明神祭や豊年講大祭以外の機会にも、白山比咩神社を定期的に参拝に訪れて、霊峰の自然をつかさどる白山の神々に祈りを捧げています。

(左)本屋理事長は豊年講秋季大祭で豊年使を務めました
(右)春と秋の年2回、旧白山比咩神社社殿地で行われる水戸明神祭


継続した事業が水資源を守る


大改修で水利施設も充実

現在、七ヶ用水改良区は5400人の組合員に支えられながら、総延長約140qにも及ぶ水路を管理して、地域の4600ヘクタールの水田に水を供給しています。
七ヶ用水では明治以降、昭和や平成にも手取川上流の大日川ダムや手取川ダムなどの完成に合わせて、大規模な改修事業が行われてきました。平成の大改修では、各水路の情報を管理できる総合管理システムや、水を利用した小水力発電所なども導入して、用水の効率的な活用を図っています。
本屋理事長は七ヶ用水改良区の事業に携わるようになってから、水のインフラを支える働きの大切さを肌で実感したといいます。「七ヶ用水改良区のスタッフは用水の状況にいつも目を配って、24時間体制で対応しています。私たちが当たり前に使っている水資源は、こうした人々の尽力や先人が整備してきたシステムの賜物なのです」。

七ヶ用水の取水口付近は「安久濤(あくど)ヶ淵」と呼ばれ、急流・手取川にあって、常に緩やかな流れをたたえています。


人事を尽くして水を待つ

そのため、本屋理事長は地域の人々に対して、「七ヶ用水は農業用水のほか、憩いの場づくりや防火、消雪などにも役立っていることをアピールしていきたい」と考えています。実際に白山管理センターで七ヶ用水の歴史に関する資料を展示するほか、水利施設をめぐるガイドツアーなどにも協力しています。
一方で用水の改修も続きます。国営事業による白山頭首工(写真参照)や幹線用水路の更新工事は昨年で完了しましたが、水路全体では約40q分を残します。その後も老朽化や水害対策に応じて、改修は重ねられていきます。
本屋理事長は地域の水資源を守る事業について、「施設やシステムをできる限り整えながら、最終的には自然に頼る仕事です」と笑います。七ヶ用水は江戸時代から続く改修工事の数々によって、白山麓全体を潤す水路網となりました。白山の神様は私たちが人事を尽くし続けるからこそ、水の恩恵を与えてくれるのかもしれません。
地域の住民や子どもたちを対象に、用水の施設をめぐるツアーなどが開催されています。
大水門に隣接する白山管理センターには、用水の歴史を語る資料の数々を展示しています。
川の流れをせき止めて水路に流し込む頭首工。七ヶ用水取水口のすぐ上流にある白山頭首工は、昨年に改修を終えて生まれ変わりました。

(左)地域の住民や子どもたちを対象に、用水の施設をめぐるツアーなどが開催されています。
(中)大水門に隣接する白山管理センターには、用水の歴史を語る資料の数々を展示しています。
(右)川の流れをせき止めて水路に流し込む頭首工。七ヶ用水取水口のすぐ上流にある白山頭首工は、昨年に改修を終えて生まれ変わりました。

記・中道大介(高桑美術印刷)