白山比咩神社の「シリーズ企画 自然と生きる⑫「祖父と父の情熱を受け継ぎ、白山の登山観光を支える」」を掲載しています。

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シリーズ企画 自然と生きる⑫
「祖父と父の情熱を受け継ぎ、白山の登山観光を支える」
−白山観光協会専務理事・永井隆一さんを訪ねて−

(令和6年7月)

当社とご縁のある中から、自然を敬い、慈しみながら、日々の生業を営む方々の姿をご紹介します。

白山観光協会(白山市三宮町)
大正10(1921)年に発足した白山振興会が前身となり、昭和23(1948)年に財団法人白山観光協会として設立。現在は一般財団法人として白山国立公園内の観光資源の保護と開発に関する事業を手掛けています。観光情報の発信のほか、宿泊施設である白山室堂ビジターセンターの管理・運営も担うなど、白山登山に訪れる人々をサポートしています。

(写真)現在は永井さんの弟夫婦が運営する市ノ瀬の永井旅館の前に立つ永井さん。ここで過ごした幼少期の思い出は白山登山を支える仕事への熱意につながっています。


登山道整備の遺志を継ぐ


白山の夏山開きの7月1日、 毎年白山室堂では白山夏山開山祭が営まれ、白山観光協会の専務理事である永井隆一さんも参列します。白山登山を支える職務の永井さんにとって、夏山登山の始まりを告げる開山祭は大切な行事の一つです。
永井さんは昭和35年に旧白峰村白峰の市ノ瀬地区で生まれました。祖父の喜市郎さんは昭和9年の手取川大洪水で被害を受けながらも、市ノ瀬で登山客などを相手に永井旅館を営み、白山の国立公園指定や登山道の整備、遭難救助、白山の砂防工事などにも尽くした人物です。父の隆男さんも当時の営林署を退職後に白山関連の工事を請け負う建設会社を設立して、この地の発展に力を注ぎました。2人は永井さんの少年時代に亡くなり、永井さんも通学のために白峰地区に住まいを移しましたが、夏休みになると永井旅館の手伝いや山の清掃活動のアルバイトに汗を流し、祖父と父が生涯を捧げた登山道維持に関わり続けました。
東京の大学を卒業したあとは、母が社長を継いでいた旅館業と建設業に携わり、白峰で生きる道を選びます。やがて村議会議員などの公職に推され、35歳となった平成7年からは白峰村村長、白山市に合併後の平成17年からは白山市地域振興公社理事長も務めました。永井さんは「周りの雰囲気に押されて村長立候補を決断したんです」と笑いますが、ふるさとを盛り立てたいと願う熱意が周囲から認められたのでしょう。

(左)永井さんの祖父・喜市郎さん(左から2人目)は、白山観光協会の理事も務めました。
(中)登山客を長年受け入れてきた永井旅館。一番古い建物は昭和9年の水害直後に建設。
(右)毎年7月1日に行われる白山夏山開山祭。白山奥宮の祈祷殿で、登拝者の道中安全と身体健全を祈ります。


白山を歩き続ける日々


白山比咩神社の関係者も役職員を務める白山観光協会は、白山に登拝する人々の助けとなる登山道や施設を管理し、山の自然を保全することを主な活動としています。
永井さんは村長時代に副理事長や専務理事を引き受けて以来、協会に関わってきました。白山室堂ビジターセンターなど協会が管理する施設をはじめ、登山ルートやその周辺には自ら定期的に足を運び、ゴミは捨てられていないか、修復が必要な箇所はないかなど、隅々まで目を配っています。「可能な限り、登山者が安全で快適に登れる場所にしたいんです」との思いから、白山の環境づくりに心を砕く日々を送っています。

市ノ瀬と白山登山の歴史について熱っぽく語ってくれた永井さん。


25歳の頃から全国の自然公園内の利用者指導や国への状況報告を行う「自然公園指導員」としても活動する永井さんは、昨年11月には長年の功績に対して、国から藍綬褒章も受けました。「白山ではいろいろな場面で活動しているので、指導員の仕事なのか、その他の立場の仕事なのか、よく分からなくなることがあります」と冗談めかして打ち明けてくれました。永井さんにとって白山との関わりは、慣れ親しんだふるさとでの生活の一部なのかもしれません。

白山観光協会が運営する白山室堂ビジターセンター。標高2450mにある宿泊施設として、山頂を目指す登山者を支えています。


豊かに過ごせる白山に


白山の多彩な植物と豊かな自然環境を守りながら、人々が安心して往来できる登山ルートの整備と維持にも腐心してきた永井さん。北陸新幹線や道路の整備、外国人観光客の増加など、時代とともに白山観光を取り巻く状況が移り変わる中でも、登山者に白山の素晴らしさを感じてほしいという思いは変わりません。
「今後の白山は単純に登山客を増やすよりも、たとえ数が減っても、その一人一人にサポートやサービスが行き渡り、満足できる場づくりを目指すべきだと考えています」とは、資源や輸送が限られる山の上で、水や食料などを用意する登山施設の運営に携わってきた立場ならではの言葉です。白山を訪れた人々すべてが、充実した時間を過ごせることが永井さんの願いです。
そんな白山の新たな魅力アップにも取り組んでいます。「今はあまり使われずに荒れた登山道の復旧をするなど、登山拠点周辺の山でも楽しく散策できるエリアを広げるのもいいですね。山頂周辺はもちろんですが、周辺の山麓にもさまざまな見どころがあることを皆さんに知ってもらいたいんですよ」。白山の歴史や自然について語るとき、永井さんの表情や声は喜びにあふれます。夏の登山シーズン到来とともに、永井さんの仕事はますます忙しくなりそうです。

永井さんも見守る中、白山室堂に運び込む物資の準備が進みます。まとめた物資はヘリコプターに吊るして運ばれます。

記・中道大介(高桑美術印刷)